【ストーリーで学ぶ】町工場がDX人材育成で人材開発支援助成金750万円を獲得するまで
この記事について
この記事は、架空の会社「株式会社中村製作所」が人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)を活用し、従業員のDXスキル習得を実現するまでの体験談形式で構成しています。
「このままでは取引先に切られる」「でも社員にIT教育なんて無理」と悩む製造業の経営者に、リスキリング助成金がどのように活用できるのかを、リアルなストーリーを通じて解説します。
注意: 登場する会社・人物は架空のものですが、手続きや金額は2026年1月時点の実際の制度に基づいています。
登場人物
| 名前 | 役職 | 特徴 |
|---|---|---|
| 中村誠一(58歳) | 代表取締役 | 父から会社を継いで20年。職人気質で紙の図面にこだわってきた |
| 中村健太(32歳) | 専務取締役 | 社長の長男。大手メーカー勤務後にUターン。DX推進派 |
| 佐藤真由美(45歳) | 製造部主任 | ベテラン技術者。パソコンは苦手だが、向上心は人一倍 |
会社概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会社名 | 株式会社中村製作所(架空) |
| 業種 | 製造業(精密金属加工) |
| 従業員数 | 18名(正社員15名、パート3名) |
| 所在地 | 埼玉県川口市 |
| 年商 | 約3億円 |
第1章: 危機 ― 「3D CADを使えないなら、取引を続けられない」
10月のある日、衝撃の電話
川口市の工業団地。株式会社中村製作所の事務所に、一本の電話が入った。
「中村社長、お話があります」
電話の主は、最大の取引先である大手自動車部品メーカーの購買担当者だった。
「来年度から、設計データは3D CADフォーマットで納品していただくことになりました。2Dの紙図面では受け付けられなくなります」
中村誠一社長は、受話器を握りしめた。
「3D CAD…ですか」
「はい。サプライチェーン全体のDX化を進めています。御社との取引は30年以上になりますが、対応いただけない場合は…」
言葉の続きは、言わなくてもわかった。
「うちの社員に、CADなんか覚えられるのか…」
電話を切った中村社長は、頭を抱えた。
中村製作所は、父の代から50年以上続く町工場だ。職人の腕と、紙の図面。それが全てだった。
パソコンはある。でも、せいぜいExcelで見積書を作る程度。3D CADなんて、誰も触ったことがない。
「専務、ちょっと来てくれ」
社長室に呼ばれた長男の健太が、事情を聞いて頷いた。
「親父、これは避けられない流れだよ。むしろ遅いくらいだ」
「わかってる。でもな、佐藤さんたちベテラン勢にパソコンを教えるなんて、現実的じゃないだろ」
「やるしかないよ。やらなきゃ会社がなくなる」
健太の言葉は厳しかったが、正論だった。
第2章: 調査 ― 「リスキリングに助成金が出る?」
社労士からの提案
翌週、顧問の社労士・田中先生が月例訪問にやってきた。
「先生、実は相談がありまして…」
中村社長は事情を説明した。3D CADを使えるようにしないと取引が打ち切られる。でも、教育にかかる費用も時間も、中小企業には重荷だ。
田中社労士は、メモを取りながら聞いていた。
「中村さん、それなら使える助成金がありますよ。人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースです」
「リスキリング…?」
「はい。新しい事業を始めたり、業務内容が大きく変わったりする時に、社員に新しいスキルを身につけさせる訓練を行うと、国から助成が出る制度です」
「経費の75%が戻ってくる」
田中社労士は続けた。
「このコースの良いところは、助成率が高いことです。中小企業の場合、訓練にかかる経費の75%が助成されます。さらに、訓練中の賃金も1時間あたり960円助成されます」
「75%…!」
「はい。たとえば、5人の社員に3ヶ月間のCAD研修を受けさせるとしましょう。研修費用が1人50万円なら、250万円の75%で187万5千円。さらに、研修時間が1人あたり100時間なら、賃金助成が48万円。合計で約235万円の助成になります」
中村社長は目を見開いた。
「そんなに出るのか…」
「上限は1事業所あたり1億円ですから、御社の規模なら十分活用できます。ただし、条件があります」
助成金の条件
田中社労士が説明した条件は、次の通りだった。
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)の主な条件:
- 事業展開等(新規事業の立ち上げ、業態転換、DX化など)を実施または予定していること
- 事業展開に必要な新たな知識・技能を習得させる訓練であること
- 訓練時間が10時間以上であること
- OFF-JT(通常業務を離れた訓練)であること
「DX化の対応ということなら、まさに『事業展開等』に該当しますね」
中村社長は、少し希望が見えてきた気がした。
第3章: 決断 ― 「みんなで勉強しよう」
全体朝礼での発表
11月の全体朝礼。中村社長は、全社員を前に口を開いた。
「みんなに大事な話がある」
取引先からの通達、3D CADへの対応が必須になったこと、そして助成金を活用して全員で研修を受けることを説明した。
「正直言って、俺もパソコンは苦手だ。でも、このままじゃ会社がなくなる。だから、みんなで一緒に勉強しよう」
社員たちの反応は様々だった。若手社員は「ようやくですか」と歓迎ムード。一方、ベテラン勢は不安そうな顔をしていた。
佐藤主任の本音
朝礼後、製造部主任の佐藤真由美が社長室を訪ねてきた。
「社長、私…正直、自信がありません」
45歳の佐藤は、入社25年のベテランだ。金属加工の腕は社内随一。だが、パソコン操作となると話は別だった。
「Excelすらまともに使えないのに、CADなんて…」
中村社長は、佐藤の肩に手を置いた。
「佐藤さん、俺だって同じだよ。でもな、25年前、お前がうちに入ってきた時、旋盤なんか触ったこともなかっただろ?」
「…はい」
「それが今じゃ、誰よりも上手い。新しいことを覚えるのに、年齢は関係ない。一緒に頑張ろう」
佐藤は、少し目を潤ませながら頷いた。
第4章: 申請 ― 意外とシンプルだった手続き
訓練計画の作成
12月、田中社労士の指導のもと、訓練計画の作成が始まった。
「まず、どんな訓練を行うか決めましょう。外部の研修機関を使いますか?」
専務の健太が答えた。
「川口市内に、製造業向けのCAD研修をやっている会社があります。3ヶ月コースで、基礎から実践まで学べるそうです」
「費用はいくらですか?」
「1人55万円です。5人受講させると275万円になります」
田中社労士は頷いた。
「いいですね。では、訓練計画を作成して、管轄の労働局に届け出ましょう」
必要書類の準備
田中社労士が用意した書類は、思っていたよりシンプルだった。
申請に必要な主な書類:
1. 人材開発支援助成金 訓練実施計画届
2. 事業展開等の内容を示す書類(取引先からの通達文など)
3. 訓練カリキュラム(研修機関から入手)
4. 対象労働者の一覧
5. 訓練経費の見積書
「これだけですか?」
「基本的にはこれだけです。事業展開の内容を示す書類として、取引先からのメールや通達文を添付すれば、DX対応の必要性は十分説明できます」
12月中旬、埼玉労働局に訓練実施計画届を提出。年明けから研修が始まることになった。
第5章: 訓練 ― 「俺にもできた!」
研修スタート
1月、5名の社員が研修をスタートさせた。
参加メンバーは、佐藤主任(45歳)、山田さん(38歳)、鈴木さん(28歳)、高橋さん(25歳)、そして専務の健太(32歳)。
会社は週2日、計16時間を研修時間として確保。残りの日は通常業務を行う形にした。
佐藤主任の奮闘
最初の1ヶ月、佐藤主任は苦戦した。
「マウスの動かし方からやり直しです…」
研修から帰ってきた佐藤は、落ち込んでいた。
しかし、若手の鈴木が声をかけた。
「佐藤さん、僕が休憩時間に復習に付き合いますよ」
「いいのかい?」
「もちろん。佐藤さんには、俺が入社した時、旋盤を教えてもらいましたから」
世代を超えた学び合いが始まった。
3ヶ月後の成果
3月末、研修が終了した。
佐藤主任は、照れくさそうに自分の作品を見せた。それは、3D CADで設計した精密部品のモデルだった。
「社長、見てください。私が作ったんです」
中村社長は、目頭が熱くなった。
「佐藤さん、すごいじゃないか…」
「マウスの持ち方から始めた私が、3Dモデルを作れるようになるなんて。自分でも信じられません」
若手社員も大きく成長していた。鈴木は、研修で学んだスキルを活かして、既存製品の3Dモデル化を次々と進めていた。
第6章: 成果 ― 助成金の受給と、その先
支給申請
4月、訓練終了後2ヶ月以内に支給申請を行った。
助成金の計算内訳:
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 訓練経費(55万円×5人) | 275万円 |
| 経費助成(75%) | 206万2,500円 |
| 訓練時間(100時間×5人) | 500時間 |
| 賃金助成(960円×500時間) | 48万円 |
| 助成金合計 | 254万2,500円 |
5月末、埼玉労働局から通知が届いた。
「助成金支給決定のお知らせ」
中村社長は、通知書を手に喜びを噛み締めた。
取引先からの評価
6月、取引先の大手自動車部品メーカーに、3D CADで作成した設計データを初めて納品した。
翌日、購買担当者から電話があった。
「中村さん、データ拝見しました。素晴らしい品質ですね」
「ありがとうございます。社員一丸となって取り組みました」
「正直、中村製作所さんが対応できるか心配していたんです。でも、これなら安心してお取引を続けられます。むしろ、新しい案件もお願いしたいくらいです」
中村社長は、電話を切った後、大きく息を吐いた。
「やった…」
第7章: 振り返り ― 社長のメッセージ
中村社長より
あれから半年。株式会社中村製作所は、大きく変わりました。
3D CADの導入をきっかけに、生産管理システムのデジタル化にも着手。今では、タブレットで作業指示を確認するのが当たり前になっています。
一番変わったのは、社員の意識です。
「新しいことを学ぶのは怖くない」
ベテランの佐藤主任がそう言うようになったのが、何より嬉しかった。
これから助成金を活用する方へ
私たちの経験から、伝えたいことがあります。
助成金は「もらえるからやる」ではなく「やりたいことを後押ししてくれる制度」です。
DX対応が必要だった。社員を育てたかった。その想いがあったからこそ、助成金を活用して研修を実現できました。
もし、あなたの会社でも「社員に新しいスキルを身につけさせたい」と考えているなら、ぜひ人材開発支援助成金を検討してみてください。
まとめ:人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 事業展開(DX、新規事業など)に伴うリスキリングを行う事業主 |
| 助成率(中小企業) | 経費の75%、賃金960円/時間 |
| 上限額 | 1事業所あたり1億円 |
| 主な条件 | 訓練時間10時間以上、OFF-JTであること |
申請の流れ
1. 訓練計画の作成(どんな研修を、誰に、いつ行うか)
2. 訓練実施計画届の提出(訓練開始の1ヶ月前までに労働局へ)
3. 訓練の実施(計画に沿って研修を行う)
4. 支給申請(訓練終了後2ヶ月以内に労働局へ)
5. 助成金の受給(審査後、約2〜3ヶ月で振込)
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